医療券とは、生活保護の医療扶助で発行される書類
医療券とは、生活保護を受けている方が病院にかかるときに、医療費の支払いを福祉事務所が引き受けるための書類です。生活保護には8種類の扶助があり、そのうち医療にあたるものが「医療扶助」です。医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない方に対して医療を給付するもので、生活保護法第15条に定められています。
医療費の支払いが福祉事務所に切り替わる仕組み
医療扶助は、お金を受け取る形ではなく、医療そのものを受けられる「現物給付」が原則です(生活保護法第34条)。福祉事務所が生活保護法の指定を受けた医療機関に医療を委託し、その委託書であり医療扶助の決定書でもあるものが医療券にあたります。
そのため、医療券が発行されている月であれば、窓口で医療費を支払う必要は原則としてありません。ただし、医療券に「本人支払額」の記載があるときは、その分を窓口で支払うことになります。
生活保護を受けると、その日から国民健康保険の被保険者資格は失われます。健康保険証を使って3割を支払う形ではなくなり、代わりに医療券で受診する形に切り替わると考えるとわかりやすいです。
1ヶ月ごとに発行され、本人が持ち歩くとは限らない
医療券は月ごとに発行されます。継続して通院している方の分は、自治体によっては1ヶ月分をまとめた「集合医療券」として毎月20日ごろに一括で処理されます。
また、医療券は福祉事務所から医療機関へ直接送られることが多く、必ずしも本人の手元に届くものではありません。健康保険証のように財布に入れて持ち歩くものとは違います。不安なときは担当のケースワーカーに確認してください。
使えるのは生活保護法の指定医療機関
医療扶助の医療は、生活保護法第49条にもとづいて指定された医療機関に委託して行われます。指定医療機関の一覧は自治体が公開しているので、受診したい病院が対象かどうかを事前に確かめられます。
ただし、急迫した事情その他やむを得ない事情がある場合には、指定を受けていない医療機関で医療の給付を受けられると生活保護法第34条に定められています。判断に迷うときは自己判断で決めず、お住まいの自治体の福祉事務所にご確認ください。
医療券をもらうまでの流れ
医療券は、自分で申請しないと発行されません。ここでは、受診の前から薬局で薬を受け取るところまでの流れを順番に見ていきます。
①受診の前に担当ケースワーカーへ連絡する
最初にすることは、担当のケースワーカーへの連絡です。いつ、どこの病院の、どの診療科にかかりたいのかを伝えます。指定医療機関の受診を希望する場合は、事前に担当ケースワーカーに相談したうえで、医療扶助の申請を行う必要があります。
すでに生活保護を受けている方の場合、この申請は「保護変更申請書(傷病届)」を提出する形で行います。用紙の名称や窓口は自治体によって違うので、連絡した際に確かめておくとよいでしょう。
②福祉事務所が医療の要否を確認して医療券を発行する
申請を受けた福祉事務所は、医療扶助を行う必要があるかどうかを判断するため「医療要否意見書」などを発行し、指定医療機関に意見を求めます。これは一般の医療保険にはない、生活保護に特有の手続きです。
提出された意見書の内容と、ほかの制度が使えるかどうかを確認したうえで医療扶助が決定され、医療券が発行されます。なお、入院ではない通院の場合、明らかに医療の必要が認められるときは、傷病届にもとづいてすぐに「診療依頼書」が発行されることもあります。その場合は、まず依頼書を持って受診する流れになります。
③2回目以降の受診と、病院を変えるときの連絡
医療扶助には承認期間があり、その期間は要否意見書にもとづいて決められます。期間が過ぎたあとも引き続き医療が必要な場合は、期間が切れる前月までに翌月以降の要否意見書が医療機関へ送られ、そこで改めて要否が確認されます。
入院外の治療が長期に及ぶ場合は、通常7ヶ月目以降の医療扶助を決定するために医療要否意見書の提出が必要になります。また、入院中に転院が必要になったときは、原則として事前に福祉事務所へ報告し、転院の必要性が認められてから手続きが進みます。病院や診療科を変えるときも、その都度ケースワーカーへ連絡してください。
薬局で薬を受け取るときは「調剤券」が使われる
病院で処方箋を受け取り、薬局で薬を受け取る場合は、医療券ではなく「調剤券」が使われます。調剤券も医療券と同じく福祉事務所が発行し、薬局へ渡される書類です。
そのため、どの薬局を使うかもケースワーカーに伝えておくと手続きがスムーズです。また病院と同じように、生活保護法にて指定された薬局を利用します。
生活保護を申請中の方は決定までに日数がかかることがある
生活保護を申請したばかりの方が医療扶助を受けたいときは、収入の調査などを行ったうえで要否が決定されるため、おおむね2週間程度の日数がかかることがあります。
この期間中は、医療機関から診察料などをあらかじめ支払うよう求められる場合があります。ただし、要否の判定の結果「要」となったときは医療券が発行され、支払ったお金を返してもらう調整が行われます。領収書は必ず保管しておいてください。
なお、急迫した状況にあると認められるときは、保護の申請がなくても必要な保護が行われることがあると生活保護法第7条に定められています。具合が悪くて動けないときは、その状況をそのまま福祉事務所へ伝えてください。
マイナンバーカードで受診する場合も、医療扶助の申請は必要
ここ数年で大きく変わったのが、マイナンバーカードを使った受診です。ただし「カードがあれば医療券の手続きは要らない」わけではありません。この項目では、誤解が生まれやすい点を整理します。
令和6年3月から始まった医療扶助のオンライン資格確認
厚生労働省によると、医療扶助については令和6年3月1日から、マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認が始まっています。生活保護を受けている方の利便性を高めることや、よりよい医療サービスを受けられるようにすることが目的とされています。
対応している医療機関や薬局の窓口でマイナンバーカードを提示すれば、これまでの医療券などの代わりとして使えます。あわせて、マイナポータルから自分の受診状況や薬剤情報を確認できるようになります。
3つの条件がそろわないと利用できない
厚生労働省は、医療扶助のオンライン資格確認を利用するには次の3つが必要だとしています。
・福祉事務所が、資格情報と医療券・調剤券の情報を登録すること
・医療機関や薬局が、レセプトコンピュータなどを改修すること
・生活保護を受けている方が、マイナンバーカードの取得と利用登録を行うこと
つまり、カードを持っているだけでは足りません。福祉事務所へ医療扶助を申請し、マイナンバーカードで受診したい旨をあわせて申し出ておく必要があります。カードの利用申し込みは、マイナポータル、医療機関に置かれた顔認証付きカードリーダー、セブン銀行ATMのいずれかで行えます。
継続して通院している場合でも、受診のたびに窓口でマイナンバーカードを提示する必要があります。なお、カード本体の有効期限は10年、電子証明書の有効期限は5年です。電子証明書が切れているとマイナンバーカードでの受診はできないので、期限は早めに確かめておいてください。
その日のうちに受診するときは紙の医療券が必要になる場合がある
急に具合が悪くなり、その日のうちに受診する場合は注意が必要です。川崎市の案内によると、当日に医療扶助を申請してマイナンバーカードの利用を申し出ても、オンラインでは医療券などの状況を確認できない仕組みです。この場合は紙の医療券が必要になることがあります。お住まいの自治体での対応がどうかは確認しておくべきです。
継続して受診している方についても、集合医療券の一括発行処理が行われる毎月20日ごろまでは、当月の医療券の情報が確認できないことがあります。また、医療機関や薬局のシステムが医療扶助のオンライン資格確認に対応していない場合は、これまでどおり紙の医療券が使われます。対応している医療機関・薬局の一覧は厚生労働省が公開しています。
DVなどの事情がある方は紙の医療券に戻せる
マイナンバーカードの利用に不安がある方への配慮もあります。カードをDVや虐待の加害者が持っている場合や、加害者などをマイナポータルの代理人に設定している場合があります。こうしたときは福祉事務所へ申し出ることで、オンライン資格確認を利用しない扱いにし、紙の医療券を持参して受診する形に戻せます。
手続きが必要になるので、心当たりのある方は福祉事務所へご相談ください。ひとりで抱え込まず、まず窓口に事情を伝えるところから始めてください。
医療券で受けられる医療と、自己負担になるもの
医療券で受けられる範囲は広いものの、すべてが対象になるわけではありません。あとから自己負担が発生して驚くことがないよう、対象と対象外を確認しておきましょう。
原則としてすべての病気・けがが対象
医療扶助は、すべての疾患に対して適用されます。生活保護法第15条が定める範囲は6つです。診察、薬剤または治療材料、医学的処置・手術などの治療と施術、居宅における療養上の管理と看護、病院または診療所への入院と看護、そして移送が含まれます。
診療方針と診療報酬は国民健康保険の例によることとされています(生活保護法第52条)。言い換えると、国民健康保険で認められない診療は、特別な場合を除いて医療扶助でも認められないということです。
ほかの制度が使えるときはそちらが優先される
健康保険やほかの制度による給付を受けられる場合は、そちらが医療扶助に優先して適用されます(生活保護法第4条)。たとえば自立支援医療、感染症法、難病の患者に対する医療等に関する法律などが該当します。
該当しそうな制度があるときは、福祉事務所から申請を勧められることがあります。手続きは増えますが、自己負担が減る場合もあるので、内容をケースワーカーに確かめながら進めてください。
保険の対象外になるものは自己負担になる
保険外併用療養費の支給にかかるもの、つまり評価療養、患者申出療養、選定療養(長期入院選定療養を除く)は、医療扶助の対象になりません。評価療養には先進医療などが、選定療養には入院時の差額ベッド代などが含まれます。
歯の治療では、歯科補てつの材料として14カラット以上の金合金を使うことは認められていません。また、医師や歯科医師が医学的な知見にもとづいて後発医薬品(ジェネリック医薬品)を使えると認めた薬については、原則として後発医薬品が給付されます。
通院の交通費は「移送費」として申請できる場合がある
先に触れたとおり、移送は医療扶助の範囲に含まれます。通院にかかる交通費は「移送費」として給付を受けられる場合があります。
ただし、自動的に支給されるものではありません。福祉事務所が「給付要否意見書」を発行し、医療機関に移送を必要とする理由や通院の頻度を記入してもらったうえで、要否が判断されます。タクシーや介護車両を使う場合は、公共交通機関を利用できない理由も医師に記入してもらう形になります。自己判断で先に利用すると対象にならないことがあるので、必ず事前に相談してください。
休日・夜間に具合が悪くなったときの受診
福祉事務所が閉まっている時間帯は、医療券を発行できません。とはいえ、受診できないわけではなく、自治体ごとに手順が決められています。
受診時に生活保護を受けていることを伝える
新潟市では、休日は区役所が休みのため医療券を出せないとしています。そのうえで、受診する際は被保護者証明書を提示し、生活保護を受けている旨を申し出るよう案内しています。
札幌市では、閉庁時間に緊急で受診する場合の持ち物が決められています。「休日・夜間診療依頼書」と、直近の「保護変更決定通知書」または「保護開始決定通知書」を持参して提示します。書類の名称や運用は自治体によって違うので、元気なうちに担当ケースワーカーへ確かめておくと安心です。
翌開庁日に受診先と診療科をケースワーカーへ連絡する
受診したあとの連絡も忘れずに行ってください。新潟市の案内では、休日明けに担当ケースワーカーへ受診した医療機関と診療科を連絡すれば、福祉事務所から医療機関へ医療券が送付されるとしています。札幌市でも、受診したことを後日すみやかに連絡し、そのときに医療券を発行するとしています。
連絡が遅れると医療券の発行も遅れます。受診した日、病院の名前、診療科の3つをメモしておき、窓口が開いたらすぐ電話してください。
医療券の手続きに必要な、福祉事務所との連絡手段を確保する
ここまで見てきたとおり、医療券の手続きは「連絡」でつながっています。受診の前に病院と診療科を伝える、休日明けに受診したことを報告する、要否意見書の状況を確かめる。どれも、福祉事務所と連絡が取れることが前提です。
受診前の連絡も、休日明けの報告も、電話番号がなければ止まってしまいます。即モバは、携帯電話会社で契約できなかった方でも申し込めるスマホ・SIMサービスです。手続きはWebでの申し込み、初期費用の支払い、セブン銀行ATMでの本人確認の3つだけで、書類の撮影やアップロードはありません。ATMは全国のセブンイレブンのほか、駅や商業施設にも置かれています。当日持っていくのは、マイナンバーカードか運転免許証だけです。申し込みの時点で電話番号を持っていない方も、案内ページに載っている専用番号で手続きを進められます。支払いは、コンビニ払い(マイペイメント)とクレジットカードから選べます。
