生活保護の貯金はいくらまでか気になっていませんか。実は国の通知に一律の上限額はなく、申請時は最低生活費の5割、受給中は使いみちで判断されます。この記事では認められる例と申告のルールを、厚生労働省の通知にそって解説します。
生活保護の貯金に、一律の上限額は定められていない
結論からお伝えすると、生活保護の貯金に「1世帯あたり◯◯円まで」という国の定めはありません。80万円まで、100万円までといった数字もインターネット上で見られますが、これらは法令や通知に書かれた基準ではありませんので注意しましょう。
とはいえ、いくらでも自由に貯められるという意味ではありません。生活保護法第4条は、利用できる資産をまず生活の維持のために活用することを要件としています。手元のお金も、この「資産」にあたるわけです。
金額の線引きがない代わりに、福祉事務所は個別の事情を見て判断します。判断の物差しになるのは、次の3点です。
・そのお金をいつから持っていたか
・そのお金がどこから来たか
・そのお金を何に使うつもりか
判断を分けるのは「いつ」「どこから」「何に使うか」の3点
3点のうち、まず効いてくるのが「いつから持っていたか」です。生活保護を申請する時点で持っていたお金と、受給が始まってから保護費をやりくりして残ったお金では、根拠になる通知そのものが違います。
申請するときの手持ちのお金には、後述する金額の目安があり、一方で受給中に残ったお金には金額の目安がなく、出どころと使いみちで判断されます。
同じ10万円の預金でも、申請前からある貯金と、受給が始まってからの貯金とで扱いは変わるということです。
申請するときの手持ちのお金は、最低生活費の5割までが目安
生活保護の申請にあたって、預貯金をすべて使い切る必要はありません。厚生労働省の資料は、保護開始時に持っている金銭のうち、家計上の繰越金程度のものについて配慮するとしています。
具体的には、最低生活費(医療扶助および介護扶助を除く)の5割までは、手持ちのお金を収入として認定しない取り扱いです。
最低生活費は世帯の年齢・人数・住む地域で決まる
最低生活費とは、健康で文化的な最低限度の生活を送るために必要だと国が計算した金額です。生活保護法第8条により、年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別などの事情を考慮した基準で測定されます。
中身は、食費や光熱費にあたる生活扶助、家賃にあたる住宅扶助、義務教育に必要な教育扶助などの合計です。世帯の人数が多いほど、また家賃の水準が高い地域ほど、金額は大きくなります。
金額は毎年度の改定や地域区分で変わります。ご自身の世帯にあてはまる額は、お住まいの自治体の福祉事務所で確認してください。窓口では、世帯の人数と年齢、家賃を伝えれば計算してもらえます。
5割を超えるお金があるとどうなるか
最低生活費の5割を超える手持ちのお金がある場合、超える分は収入として認定されます。その分だけ支給される保護費は少なくなりますが、申請そのものができなくなるわけではありません。
厚生労働省は、明らかに預貯金が多額で保護に該当しない場合などを除き、申請の意思を必ず確認するよう福祉事務所に求めています。保護に該当しないことが明らかな場合でも、申請の意思があれば速やかに申請書を交付することが必要だとしています。
つまり「少し貯金があるから相談に行けない」と考える必要はありません。福祉事務所に手持ちの額を正直に伝えた上で、要否の判断を行ってもらいましょう。
学資保険は解約返戻金が50万円以下なら続けられる場合がある
子どもの就学費用として学資保険をかけている場合、申請時に必ず解約しなければならないわけではありません。厚生労働省の課長通知は、次の3つをすべて満たすときは、解約せずとも保護が適用されるとしています。
・同一世帯の子が18歳以下のときに、同一世帯員が満期保険金を受け取るものであること
・満期保険金または解約返戻金の使いみちが、世帯内の子の就学に要する費用にあてる目的であること
・開始時点の1世帯あたりの解約返戻金の額が50万円以下であること
ただし、後に満期保険金や解約返戻金を受け取ったときは、開始時の解約返戻金に相当する額が返還の対象になります(生活保護法第63条)。返還を求められる範囲は就学等の費用にあてられる額を踏まえて判断されます。受け取る前に福祉事務所へ伝えておくと、行き違いを防げます。
なお、解約返戻金が少額で、保険料の額がその地域の一般世帯と釣り合っている場合、学資保険以外の生命保険にも同じような取り扱いがあります。
受給中に保護費をやりくりして貯めたお金は、使いみちで判断される
受給が始まったあとの貯金には、金額の目安がありません。代わりに、厚生労働省の課長通知(第3の問18)が判断の手順を示しています。
この通知によれば、保護費のやりくりによって生じた預貯金は、使いみちが生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合活用すべき資産にはあたらず、保有を容認してもよいとされています。貯金そのものが禁じられているわけではない、ということです。
まず確認されるのは「開始時からのお金ではないか」「未申告の収入ではないか」
同通知は、保有を認める前提として2点の確認を求めています。
・保護開始時に保有していたお金ではないこと
・不正な手段(収入の未申告など)によって蓄えられたお金ではないこと
裏を返せば、この2点が崩れると話は変わります。例えば、働いて得た収入や年金、親族からの仕送りを申告せずに口座に残していた場合は、「やりくりで生じた預貯金」ではなく未申告の収入として扱われます。
生活保護法第61条は、収入や支出、生計の状況に変動があったときは、すみやかに届け出るよう定めています。少額であっても、収入があったときは必ず福祉事務所に伝えてください。
使いみちが制度の趣旨に反しなければ、活用すべき資産にはあたらない
では、どんな使いみちなら認められるのでしょうか。
厚生労働省の次官通知は、被保護者は経常的最低生活費の範囲内で、通常予測される生活需要をすべてまかなうべきものだとしています。家電の買い替えのような出費に毎月の保護費から備えることは、この考え方と矛盾しません。実際に厚生労働省は、エアコンなどの生活用品について、毎月の保護費のやりくりのなかで計画的に購入することが必要だと説明しています。
一方、保有が認められない物品の購入など、使いみちが生活保護の趣旨目的に反すると認められる場合は、最低生活の維持のために活用すべき資産とみなさざるを得ないとしています。この場合は、収入認定や要否判定のうえで保護の停止または廃止が行われます。
また、保有が認められた預貯金についても、福祉事務所は必要に応じて計画的な支出の助言指導を行うこととされています。相談は監視ではなく、こうした支援の一環だと考えてよいでしょう。
高校卒業後の進学費用は、貯め始める前の承認が必要
子どもの進学費用については、より具体的な取り扱いが示されています。高校などに通う子が卒業後に専修学校、各種学校または大学へ進学するための費用にあてる場合、次の4点をすべて満たせば保有が認められます。
・具体的な就労自立に関する本人の希望や意思が明らかで、卒業時の資格取得が見込めるなど、特に自立助長に効果的だと認められること
・就労に資する資格を取得できる専修学校、各種学校または大学に就学すること
・使いみちが、進学のために事前に必要な入学料などにあてるものであること
・やりくりで生じる預貯金で対応する経費の内容や金額が具体的かつ明確で、原則としてやりくりを行う前に福祉事務所の承認を得ていること
注意したいのは4点目です。貯めたあとに承認を求めるのではなく、貯め始める前に相談するのが原則とされています。使ったあとには、その目的に使ったことを示す書類の確認も行われます。
株式・投資信託・国債は、貯め方として認められない
近年は少額から投資を始められる制度が広まりました。ただし、生活保護を受けている間に、この方法でお金を増やすことはできません。厚生労働省の課長通知は、株券、国債証券、投資信託の受益証券など、資産形成に資する有価証券の保有は認められないとしています。
同じ金額を残す場合でも、預貯金の形か投資商品の形かで取り扱いは違います。将来に備えたいときは、普通預金など引き出しやすい形にしておくのが無難です。
貯金額の調査は年に1回以上ある
貯金の状況は、自己申告だけで済むものではありません。福祉事務所は、生活保護法第29条に基づいて金融機関などに資産の調査を行うことができます。
課長通知は、現金、預金、動産、不動産などの資産の申告を少なくとも12ヶ月ごとに行わせるとしています。申告の内容に不審がある場合には、関係先への調査も行われます。
加えて、就労している方の収入申告は原則として毎月、収入がない場合も1年に1回は提出を求められます。課税調査は毎年6月以降に実施されます。口座を分けたり現金で手元に置いたりしても、いずれ食い違いは表面化するため、正しく申告を行いましょう。
申告しなかったときに起こることは、2種類ある
申告のないまま貯金が見つかった場合、その後の扱いは一律ではありません。生活保護法には性質の違う2つの規定があり、どちらが適用されるかで負担は大きく変わります。
「返還」と「徴収」は別のもの
まず、生活保護法における返還と徴収について解説していきます。
生活保護法第63条は、資力がありながら保護を受けたときの返還義務を定めています。返還する額は、受けた保護金品に相当する金額の範囲内で実施機関が定めます。これは不正を前提とした規定ではありません。
これに対して生活保護法第78条は、偽の申請その他不正な手段によって保護を受けた場合、その金額を徴収します。例として、不正受給がこれにあたります。第78条が適用されると、徴収する額に加えて、その40%以下の金額をあわせて徴収される場合があります。
どちらを適用するかは、福祉事務所がケース診断会議などで組織的に判断します。例えば、不当に受給しようとする意思がなかったと認められる場合、届け出の遅れにやむを得ない理由があるときなどは、第63条の適用が妥当だとされています。
福祉事務所に伝えるのが遅れてしまったと感じている方ほど、早めに事情を相談するべき、ということです。
保護が止まったあと、認められていた貯金はどうなるか
保護の停止と廃止についても見ていきましょう。
停止は、おおむね6ヶ月以内に再び保護を要する状態になると見込まれる場合などに行われます。停止前に保有を認められていた預貯金は、停止中もそのまま持っていられます。ただし、生活保護の制約は継続したままなので注意しましょう。
廃止では、生活保護制度上の制約を受けなくなります。そのため、その預貯金を何に使うかは本人の自由となります。ただし、再び生活に困って申請したとき、保護開始時の要否判定では資産として扱われます。
貯め始める前に、福祉事務所へ使いみちを伝えておく
ここまで見てきたとおり、生活保護の貯金は金額ではなく、出どころと使いみちで判断されます。そして、その判断を行うのは担当の福祉事務所です。
制度の運用には自治体ごとの幅があり、同じ使いみちでも説明の求められ方が違うことがあります。判断に迷ったときは、貯め始める前に担当のケースワーカーへ相談してください。何のためにいくらぐらい残したいのかを伝えると、話が早く進みます。
借金の返済が絡む場合や、返還を求められて対応に困っている場合は、法テラスなどを通じて弁護士や司法書士といった専門家に相談する方法もあります。ひとりで抱え込まず、いまからできることを1つずつ進めていきましょう。
生活保護の相談を続けるあいだの連絡手段を確保しておく
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